月別アーカイブ: 2015年7月

マイナンバー制と医療情報

全国民に個人番号を付番し、個人を一意に特定することを可能とする「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(以下「番号法」、通称:マイナンバー)」および関連法が2013年5月24日に成立した。
 

番号法では自治体が関与する行政手続について多く規定されていることから、現在は自治体を中心に、2015年10月の国民への個人番号の通知、2016年1月の個人番号の利用開始、2017年1月の国機関での情報連携の開始、2017年7月の自治体を含めた情報連携の開始に向けて、システム改修、業務運用の見直しなどが実施されている。

■事の始まり

現在、行政機関・自治体等には年金の基礎年金番号、介護保険の被保険者番号、自治体内での事務に利用する宛名番号のように、分野や組織ごとに個人を特定するための番号がある。しかし、異なる分野や組織間で横断的に個人を特定するための番号は無く、異なる分野や組織で管理している個人を同一人として特定することに手間どっている。そこで複数の機関に存在する個人情報を、同一人の情報であることを確認できるように、国民1人1人に「個人番号」と呼ばれる番号を付番し、各分野、各機関で横断的に利用することができる「番号制度」が導入されることとなった。

■導入後のメリット

番号制度導入後は、各機関から提出される申告書に個人番号が付記されることから、各申告書が同一人であることの識別作業が容易になり、場合によっては業務システムでの自動処理による判定も可能となることも想定されます。

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図1・個人番号による本人確認の運用イメージ、出典:内閣官房「番号制度の概要」

■個人番号の利用範囲

今回の番号法では社会保障分野、税分野、災害対策分野に限定されているが、「施行日以後3年を目処に、利用事務の拡大を目指すこと」とも規定され、今後は分野や利用機関の拡大が図られる。医療に関しても、地域医療連携を図るうえでの情報の共有は重要であるが、情報内容がプライバシーの関わる個人情報であるために慎重な検討が必要である。

健康保険証番号をマイナンバー制にすると、例えば本人確認のための銀行で個人の病歴などが閲覧できるということや病院で患者の戸籍が閲覧できるということになる。医師会は、医療IDは必要な場合に「忘れられる権利」「病歴の消去」「管理番号の変更」「複数管理番号の使い分け」などが保障されなければならないとして反対を表明している。

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図3・個人番号の利用範囲、出典:内閣官房「番号制度の概要」

脊髄小脳変性症に光明か

12月15日、東京医科歯科大難治疾患研究所は、神経変性疾患の脊髄小脳変性症1型(SCA1)のモデルマウスを使った遺伝子治療で、寿命と運動能力の改善に成功したと発表した。
 

脊髄小脳変性症は、アルツハイマー病、パーキンソン病に次いで患者の多い神経変性疾患で、推定で約3万人の患者がいるが、現在のところ有効な治療法は確立されておらず、病態の解明と治療法の開発が求められていた。これまでの先行研究では、核DNAの損傷修復機能を果たすタンパク質「HMGB1」の不足で細胞機能異常が生じる可能性が提示されていた。今回の研究では、SCA1マウスを使って、HMGB1を補充した際の治療効果を調べた。
 

SCA1マウスとHMGB1を過剰に発現させたマウスを交配させ、原因遺伝子の一部である「ataxin-1遺伝子エキソン」とHMGB1の両方を発現するマウスを作製し、このマウスとSCA1マウスを比較したところ、平均寿命が延びたことが判明した。また、SCA1マウスに対する遺伝子治療でも運動機能の改善を認めたほか、脳炎などの副作用は見られなかった。

マウス固体で神経変性を改善することが示され、哺乳類でのHMGB1補充の有効性が確認されたことから、今後は霊長類モデルでの検証や、臨床試験への進展が期待できる。

研究成果は同日、欧州分子生物学機構(EMBO)の科学誌のオンライン版に掲載された。

■脊髄小脳変性症(Spinocerebellar Degeneration:SCD)とは

運動失調を主な症状とする神経疾患の総称で、小脳および脳幹から脊髄にかけての神経細胞が徐々に破壊、消失していく。1976年10月1日以降、特定疾患に16番目の疾患として認定されている。また、介護保険における特定疾病でもある。

1986年の調査では10万人に5~10人の割合で発症すると推定されている。日本では遺伝性が30%であり、非遺伝性が70%である。欧米と異なり遺伝性のSCAは大部分が優性遺伝である。主に中年以降に発症するケースが多いが、若年期に発症することもある。症状は、10年、20年単位で非常にゆっくりと進行する。だが、進行の速度には個人差があり、進行の早い人もいる。遺伝性のものは孤発性よりも若年発症が多いが、DRPLAを除き孤発性よりも予後はよいとされている。

症状は、小脳失調障害による運動失調や延髄機能障害による運動失調、自律神経障害、不随意運動が見られ自立した生活が困難となる。

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※難病の定義なし。一般的に「治りにくい病気」や「不治の病」、原因不明、治療方法未確立(1972年の難病対策要綱)

地域包括ケア病棟の届出状況

2014年度の診療報酬改定で新設された「地域包括ケア病棟入院料」(地域包括ケア病棟入院医療管理料含む)の届け出病院が、11月26日までに地方厚生各局が発表した届け出状況の累積数が10月で862件になった。全国の病院数は8567病院(6月現在)なので、1割を超える病院が地域包括ケア病棟の算定を届け出たことになる。

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地域包括ケア病棟入院料は、急性期病院を退院した患者の受け皿や、体調を崩した在宅患者の後方病床としての役割を担うもので、14年度診療報酬改定の目玉である。

従来の「亜急性期入院医療管理料」(亜急管)を廃し、7対1入院基本料の算定要件の厳格化に伴う経過措置の期限を9月30までとしていた。10月単月での届出数は369件と、単月での数がこれまでの過去最高になった。 

都道府県別では、大阪府(54件)、兵庫県(49件)、東京都(46件)、福岡県(46件)の順に届け出病院が多く、人口が多い地域の申請が順調に伸びている。届け出数がゼロなのは11月26日現在、山梨県のみとなっている。

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地域包括ケア病棟入院料には、要件がより厳格な「地域包括ケア1」と要件が緩和された「地域包括ケア2」の2種類があって、現在は「地域包括ケア1」が93%と大半を占めています。

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200床未満の病院の届出が675病院と全体の78%とほぼ8割を占めている。

一方、400床超の病院による届け出も少しずつ増えている。

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7対1医療・看護必要度の重症度基準クリアは約8割

一般病棟7対1入院基本料(7対1)を届け出る病院のうち、同基本料の施設基準の「重症度、医療・看護必要度」の基準を6月時点で満たしていた施設割合が約8割にとどまることが、日本病院会(日病)の調査で分かった。

同基本料の重症患者の受け入れに関する基準は2014年度診療報酬改定で厳格化され、血圧測定や時間尿測定、喀痰吸引の実施などを、重症かどうかを判断する項目から除外した。その一方で、抗悪性腫瘍剤の内服といった項目等が追加された。

7対1の施設基準では、これを満たす重症患者の割合が15%以上であることを求めている。この見直しによる影響の緩和のため、9月30日まで経過措置が設けられた主な改正内容は、重症患者の割合15%以外の要件が変更になる。

主な改正内容は、重症患者の割合15%以外の要件が変更になる。

①救命救急入院料を算定する治療室が病院内にあることによる基準の免除規定やがん専門病院でのこの割合を10%にする免除規定は廃止される。

また、②「重症度、医療・看護必要度」のA得点(モニタリングや処置)の項目を見直し、③9項目を7項目(10点満点を8点満点)にし2点以上とする。④削除項目は、「時間尿測定」と「血圧測定」で、⑤「呼吸ケア」の測定対象から「喀痰吸引のみの場合」を除外する。また⑥「創傷処置」は、「褥瘡処置とそれ以外の創傷処置」と分け、どちらかに当てはまれば評価する。⑦「専門的な治療・処置」項目に「麻薬の内服・貼付」を加えるなど大きく改定された。

自治体病院の地域医療貢献度

全国自治体病院協議会(全自病)は、今年度から「医療の質の評価・公表等推進事業」を実施している。具体的には、「在宅復帰率」や「地域分娩貢献率」などの一般病院での医療の質や地域とのかかわりを示す22項目と、「在院3か月以内退院率」など精神科に関する15項目についてである。

12月11日に開かれた常務理事会後に7月~9月に報告のあった105病院の結果が公表され、自治体病院の在宅復帰率が平均で86.5%であった。理事会は、「地域医療における自治体病院の貢献度が高い」としている。

2014年度の診療報酬点数改定で一般病院入院基本料7対1や10対1、特定機能病院入院基本料7対1、専門病院7対1、地域包括ケア病院等の施設要件に在宅復帰率75%以上が科せられている。
二次医療圏内の出生数のうち、自治体病院でどれくらい出生したかを表す地域分娩貢献率は平均19.4%、精神科の在院3か月以内の退院率は、平均81%だった。

■在宅復帰率等の基準の新設

退院患者のうち、自宅、慢性期病棟、地域包括ケア病棟(病室)、療養病棟(在宅復
帰機能強化加算を届け出ている病棟に限る)、居住系介護施設または介護老人保健施設(在宅強化型介護老人保健施設または在宅復帰・在宅療養支援機能加算を届け出ているも
のに限る)に退院した者の割合が75%以上であること。

■在宅復帰率(計算式)

【一般病院等】 在宅復帰率(75%以上)= 分子/分母

分子 = 自宅、回復期リハビリテーション病棟入院料、地域包括ケア病棟入院料(入院医療管理料)、療養病棟(在宅復帰機能強化加算(後述)の届出病棟に限る)、居住系介護施設等、介護老人保健施設(いわゆる在宅強化型老健施設、在宅復帰・在宅療養支援機能加算の届出施設に限る)」に退院した患者(転棟患者を除く) 

分母 = 直近6月間に7対1入院基本料を算定する病棟から退院した患者(死亡退院・転棟患者・再入院患者を除く)

【地域包括ケア】 在宅復帰率(70%以上)= 分子/分母

分子 = 「自宅、療養病棟(在宅復帰機能強化加算の届出病棟に限る)、居住系介護施設等、介護老人保健施設(いわゆる在宅強化型老健施設、在宅復帰・在宅療養支援機能加算の届出施設に限る)」に退院した患者 + 療養病棟(在宅復帰機能強化加算の届出病棟に限る)へ転棟した患者

分母 = 当該病棟又は病室から退院した患者(死亡退院・再入院患者を除く)+転棟した患者

2013年 国民健康・栄養調査

厚生労働省が、2013年11月、5204世帯を対象に実施した「国民健康・栄養調査」の結果(3493世帯が有効回答)によると、一日の野菜摂取量や、習慣的に運動している割合、睡眠時間が足りないと週3回以上感じる割合などは、いずれも60歳以上の人が良好だった。一方、20-30歳代の人では、食事のバランスが取れておらず、継続的に運動せず、睡眠時間が足りていない傾向が見られたという。

また、糖尿病に関する状況なども調べたところ、男性の最高血圧の平均値は135.3mmHgで、前年調査と比べ0.7mmHg上昇したものの、07年から低下傾向にあるとした。女性も10年間で低下傾向が見られるとし、13年の調査では129.5mmHgだった。

血清総コレステロールの平均値は、男性が196.6mg/dL、女性が207.3mg/dLで、どちらも10年間で変化が見られないと考察した。血清総コレステロールが240mg/dL以上の割合は、男性が10.3%、女性が16.8%だった。

BMIが一定の基準以上の肥満者の割合も調べたところ、男性は28.6%だった。この割合について同省は、10年まで増加傾向だったものの、11年から変化が見られないと指摘。一方、女性は20.3%で、10年間で減少傾向が見られるとした。

HbA1cの値が一定の基準を超えていたり、糖尿病治療を受けていたりする「糖尿病が強く疑われる者」の割合は、男性が16.2%、女性が9.2%で、男女ともに変化が見られないとした。

また、一日の食塩摂取量の平均値は、男性が11.1g、女性が9.4gだった。前年の調査と比べると、男女とも0.2g減っていた。

習慣的に喫煙している人の割合は、男性が32.2%、女性が8.2%で、男女とも10年間で減少傾向にあると分析した。平均は19.3%だった。割合を年齢階級別に見ると、男性は30歳代(44.0%)、女性は20歳代(12.7%)が最も高かった。

習慣的に喫煙している人のうち、たばこをやめたいと思う人の割合は、男性が23.4%、女性が28.6%。たばこの本数を減らしたいと思う割合は、男性が35.4%、女性が26.7%だった。

セルフケア増進に向けて頑張ってほしいものである。

■血清総コレステロールの働き

食事で摂取したコレステロールは小腸から吸収されて、肝臓に取り込まれ、胆汁酸に変換されて胆汁中に排泄され脂肪を消化する。

胆汁中に排泄された胆汁酸は、小腸でほとんどが再吸収され、肝臓に運ばれて再利用されている。小腸で吸収されなかった胆汁酸は、糞便中に排泄される。
その他コレステロールは、細胞膜の材料、ステロイドホルモンの材料(副腎皮質ホルモンや性ホルモン(男性ホルモン、女性ホルモン)などに使用される。多すぎると動脈硬化となる。

寒冷蕁麻疹

冷たい水や空気に触れると蕁麻疹がでたり、鼻やのどの調子が悪くなるなど寒冷アレルギーの症状は以下のように多岐にわたる。

①寒冷蕁麻疹(皮膚温が低下すると赤みやかゆみをともなう蕁麻疹が発生する)

②鼻水・鼻づまり(気温が下がってくると常に鼻がつまり、鼻水が出るようになる)

③喉の腫れ・咳(冷たい空気を吸ったり、冷たい飲み物を飲んだりすると喉の腫れや咳が起こる)

④腹部症状(外気温の低下や、冷たいものを食べたり飲んだりすることで胃腸の調子が悪くなり、食欲が減退する)

⑤血圧低下などの全身症状(冷たい水の刺激によって血圧が一気に低下することがある)
寒冷蕁麻疹の発症には2つのパターンがある。一つは、冷たい水や風のように体温よりも低い物質に触れたことで発症する場合、もう一つは、体が冷やされたのちに温められたことで発症する場合である。

特徴は、いずれも冬場に発症しやすく、皮膚が赤くなり、鳥肌に似たわずかな腫れとかゆみが起こる。放置すると症状が悪化することもあれば、悪化せずにたまに出る程度で留まることもある。

体が急に冷たくなるたびに皮膚に発疹が出現したり、温かいところから寒いところに移動するとかゆみが出てしまう人は、寒冷蕁麻疹の可能性が高い。激しい温度変化が、血管の周辺にある肥満細胞(造血幹細胞で作られる細胞の1つで、血管の周りに多く在るが、鼻粘膜や気管支など、他のさまざまな組織にも存在している。アレルゲンが体内に侵入すると化学物質(ヒスタミンなど)を放出し、アレルギー反応を発生させる。また、炎症など免疫反応を起こすことで、病原菌などから体を守る重要な役割も果たしている。)が刺激されることでヒスタミンが放出され、そのヒスタミンが血管内の血漿を外に出すため、皮膚に赤みを帯びた膨らみができる。寒冷蕁麻疹が発生した箇所をかいてしまうと、かゆみが発生したり、蕁麻疹が広がることがある。

寒冷蕁麻疹は、「手、足、太もも、背中、腹部」などに発疹ができやすく、以下の症状がみられたら、寒冷蕁麻疹の可能性がある。

1.アイスクリームやジュースなどを飲むと、かゆくなる。

2.裸足で冷たいフローリングを歩くと、足がかゆい。

3.寒がりで鳥肌が発生して、関節などがかゆくなる。

4.冷たい風に当たると顔が部分的にかゆみを感じる。

5.温まった状態で冷たい場所に移ると、かゆみを感じる。

原因が寒冷と判明しているために、寒冷を避けることが寒冷蕁麻疹の予防法であるが、具体的には体温の温度変化を抑えることが大切になる。

屋外では体を極端に寒くならないように、暖かさを感じる丁度良い服を着るようにする。
冬場は入浴後の脱衣場で寒冷蕁麻疹が発症しやすいので、脱衣場をよく温める。お風呂でも体を十分に温めて、上がったら早く着替えて、体温の低下を防ぐ。

運動したあとは体を冷やさないように、タオルで体を拭くことも効果がある。

蕁麻疹は早く反応の出るタイプのアレルギーなので、急激な温度差を避けるとよい。

寒冷蕁麻疹の予防では最初のアレルゲンを防ぐことが重要だが、治療では次のヒスタミンを分泌させないための抗ヒスタミン剤の内服や注射などが有効だ。ただし、対症療法なので、刺激があれば再発を繰り返す。治療薬を長期に使用することで、発症頻度や重症度が軽減できる。

寒冷蕁麻疹のできやすい人は、エアコンやドライヤーも原因の1つになるので注意が必要である。旅行先では冬の露天風呂も温度差が極端なので注意が必要になる。一般的に寒冷蕁麻疹になりやすい人は「血行不良、寒がり、痩せている」といった特徴がある。敏感肌や乾燥肌の人も発症しやすい。そのような人は寒冷蕁麻疹だけではなく、体温の上昇で起こる温熱蕁麻疹にも気をつけたほうがよい。

■寒冷アレルギーの治療

●日常生活の心がけ

・マスクをして、粘膜への寒冷刺激を抑える

・水泳は寒冷刺激が大きいため、行わない

・寒い日には暖かい服を着る

●外用薬

抗ヒスタミン薬やステロイドの配合された軟膏を塗ることで、かゆみを沈める。

●薬の内服(ヒスタミンの分泌を抑えて症状を軽減する対症療法)

抗ヒスタミン薬:寒冷刺激で冷やされてから蕁麻疹が誘発されるまでの時間が長くなり、症状が
起こりにくくなる。

●寒冷脱感作
冷たいシャワーを体の一部に繰り返しかけ、蕁麻疹がでなくなったら徐々にその範囲を広げてい
くという治療方法。

寒冷アレルギーは、アレルゲンに対して反応しているわけではなく、寒冷刺激という物理的な刺
激に対し神経が反応している状態。メンタル面や体調などによっても症状が変わってくるため、
気長に付き合っていくことが必要になる。

クッシング病の原因遺伝子解明

12月9日、東京工業大学大学院生命理工学研究科の駒田雅之教授と東京都医学総合研究所の田中啓二所長、Medizinische Klinik und Poliklinik IV(メディツィニシェ・クリニック・ウント・ポリクリニックIV研究所、ドイツ)のマーティン・ラインケ所長らの共同研究グループが、難病のクッシング病を引き起こす脳下垂体の腫瘍の原因遺伝子を発見し、この遺伝子(脱ユビキチン化酵素USP8:脱ユビキチン化酵素は、ユビキチン化されたタンパク質と付加されたユビキチンの間のアミド結合を切断する加水分解酵素の総称でUSP8は、ヒトに約90種類存在する脱ユビキチン化酵素の1つ)の変異で病気が引き起こされるメカニズムを解明したことを発表した。

クッシング病は、脳下垂体(脳の直下に位置する小指の先ほどの大きさの内分泌器官で副腎皮質刺激ホルモンACTHの他に甲状腺刺激ホルモン、性腺刺激ホルモン、成長ホルモン、プロラクチンなどを分泌する)の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH:脳下垂体で前駆体タンパク質プロオピオメラノコルチンとして合成され、限定分解されてACTHとなり分泌され、副腎からの糖質コルチコイドの分泌を促す)を産生する細胞の腫瘍により引き起こされる。ACTHは副腎からの糖質コルチコイド(副腎から分泌されるステロイドホルモンで肝臓における糖新生を亢進し、血糖値を上昇させる)の分泌を促進するペプチドホルモンであるため、クッシング病の患者では脳下垂体の腫瘍細胞から過剰に分泌されたACTHが副腎からの糖質コルチコイドの過剰分泌を誘発する。その結果、満月様顔貌・中心性肥満・糖尿病・高血圧・骨粗鬆症などの合併症を引き起こす(下図 発症のメカニズム)。

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クッシング病は治療を行わないと死に至ることもある病であるが、有効な治療薬がなく、完治のための唯一の治療法は脳下垂体腫瘍の外科切除(鼻腔や上歯茎から脳直下に内視鏡を挿入して行う高度な技術を要する)である。患者にとって危険や侵襲も大きく、特効薬の開発が待ち望まれている。

今回の遺伝子変異によるUSP8の過剰な活性化がクッシング病の原因となるという発見は、USP8の働きを阻害することでクッシング病を治療できる可能性(USP8がクッシング病治療薬の分子標的となりうる)や、変異USP8が特定の部位で切断されて活性化されることが解明されたことから、その切断を阻害したりUSB8を切断する酵素の同定が発見されればクッシング病治療薬の開発に結びつき、クッシング病を治療できる可能性が示されたことになる。

クッシング病は厚生労働省の特定疾患および難治性疾患克服研究事業に指定された難病で発症機構はこれまで未解明であった。今回の研究成果は、脳下垂体腫瘍を切除する以外に有効な治療法がなかったクッシング病の治療薬開発に向け大きな一歩となることが期待できる。
研究成果は英国時間の8日、英科学誌ネイチャー・ジェネティクスのオンライン速報に掲載された。

■ユビキチン化と脱ユビキチン化による増殖因子受容体の分解調節機構図

細胞増殖因子は、細胞表面の受容体タンパク質に結合して受容体を活性化し、活性化された受容体は様々なシグナル伝達経路を活性化することで、細胞分裂や遺伝子発現などを引き起こす。同時に、活性化された受容体はすみやかに細胞内に取り込まれ、エンドソームを経由してリソソームに運ばれて分解される(図2A)。これは、活性化された受容体が過度に働くことで細胞の過剰応答を引き起こすことを防ぐための仕組みである。この時、活性化受容体にはユビキチンというタンパク質が共有結合し、これが多様な細胞膜タンパク質の中から活性化受容体だけを選別してリソソームに運ぶための荷札となる(図2A)。

駒田教授らは、エンドソームで働く脱ユビキチン化酵素 USP8[注6] が活性化された増殖因子受容体からユビキチン(リソソーム行きの荷札)を外して受容体を細胞膜にリサイクルし、その分解を抑制することを明らかにしてきた(図2B)。すなわち、USP8が受容体のユビキチン化レベルを調節してその分解速度を調節することで、活性化受容体から発信される化学シグナルの量を調節していることを解明してきた。

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ストレスとうまく付き合う

ストレスとは、「環境からの刺激によって生じた、悩みや緊張や疲労の状態のことをいい、このストレスを生んだ刺激を「ストレス源」または「ストレッサー」と言う( 一般的には、ストレッサーのこともストレスと呼ぶ)」。

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ストレス反応(不安、焦り、身体不調など)は、ストレス原因によって 引き起こされる。職場におけるストレス原因の代表的なものは、仕事の量、仕事の難易度(質)、物理的な職場環境、人間関係などで、意外なことに「仕事の裁量」がストレス反応と大きな関係を持っていることが 分かってきている。自分のやり方で仕事を進められない場合のストレス反応は悪くなる傾向が大きいという。部下と上司の関係の作り方、組織内でのビジョンの共有、といったソフトの要素も入ってくる。
人間のストレス反応はストレッサーにより自動的に決定されるわけではない。それ以外に重要な要因が2つある。

1つ目は「ソーシャルサポート」で、何かあったときに家族、友達、同僚などに助けを求めることができるかどうかということだ。孤立した人と友達が多い人とでは、どちらが高ストレス状況にうまく対応できるだろうか。何かあったときに頼れる分厚い人間関係を作ることは、ストレス社会においては強力な武器になる。

2つ目は「ストレス対処(メンタルタフネス)」についてで、「ストレッサーの刺激に対してどのように対処するか」という、それぞれの人が持つ対応のスタイルのようなものである。例えば、AさんとBさんに、まったく同じような非常に大きな仕事が割り振られたとしましょう。「よし、やるぞ」と意気込むAさんはストレスにならず、「僕にこんなことはできるはずもない」とプレッシャーを感じたBさんはストレス反応が高まった。これは、Aさんが良いストレス対処をし、Bさんが悪いストレス対処をしているということである。

1.ストレス対処においてやはり個人の対処というものが極めて重要である。

2.ストレス対処法は個人のクセなので、修正が可能である。

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3.感情を暴れさせるのではなく、理知的な表現をする 

エンゲージメント(仕事熱意)も併せて考える。

ストレス対処は、個人の考え方の「クセ」だといわれる。強いプレッシャーを受けるとき、人間はある程度自動的にどう対応するかを選択して行動する。

嫌なことがあった場合に、「ああ、俺はダメだと思い込む」とか、「すぐにあきらめてその場から逃避する」とか、「嫌な気持ちのままやり過ごす」というのはよくない対処法で、一時的にストレス反応が下がるかもしれないが、根本的な原因が解決していないので、中長期的にはますますストレス反応が高まる状況におかれてしまう。

クセといえば貧乏ゆすりや爪を噛むのと一緒で、長年しみついているので変えられないようにも思えるが、きちんと意識して改善活動をすれば変えられる。

クセが厄介なのは、自分自身ではなかなか気付きにくいことで、そのため、第三者の支援が必要になる。カウンセラーのような専門家でなくても、「そういう態度は良くない」「こうすべきなんじゃないか」と身近な人にアドバイスをもらうだけでも大きな気付きが得られる。だれかの手助けがあればクセは直せる。そのためには自分自身が自分を変える、自分は変わる。変わってきていることを予感することや他人の叱責や注意を自分に対する非難ではなく、期待、できていないことを教えてもらっているととらえる発想の転換が必要である。ストレスの多い人はこうした対応が苦手である。そもそも、ストレスのない人はいない。多くの人は多かれ少なかれストレスをもっている。「時間に追われている」「煩わしい人間関係が嫌だ」「技術や情報の高度化についていけない」など、ストレスを感じる理由は人それぞれである。

しかし、ストレスが溜まってしまう仕組みや、効果的なストレスケア法など、ストレスについての正しい知識を持っている人は少ない。

■ストレスの構造

ストレスは、外部から刺激を受けて体に起こる反応と、その原因となる刺激(ストレッサー)のことである。たとえば、ボールを指で押すと、へこむ。このへこみや、へこみを起こす力がストレスである。へこんだボールは時間がたてば元に戻るように、私たちもストレスを受けて体調を崩しても、休めばたいてい健康な状態に回復する。これは、「ホメオスタシス」(生体恒常性)という、正常な状態に戻ろうとする体の働きがあるからだが、圧迫が強すぎたり持続すると、ボールは元に戻らなくなってしまう。私たちの体も同様で、ストレスが強すぎたり、長期間になるとホメオスタシスが働かなくなってしまう。ストレスの影響が強くならないうちにコントロールする必要がある。

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■「発想」によってストレスを減らす方法

1.認知療法:ストレスを招きやすい物事の捉え方である「認知のゆがみ」に気づき、それを再検討して、現実的で合理的なものへと修正していく心理療法。「認知のゆがみ」には、たとえばオールorナッシングで物事を捉える、何でも物事をマイナスに捉える、「~すべき」と思いこんでしまう、というように、独特の物事の捉え方のクセで自分を追い込んでしまうことがある。これらの認知のゆがみを感じたときに、それをノートに書き、後で振り返って検討する方法がよくとられる。

2.ストレスコーピング
ストレスが起きたときに、それと格闘するのではなく、うまく付き合っていくことで、ラザルスの分類では、次の8種類がある。

•直面的対処—失敗を恐れずに向かい合うこと

•距離を置く—考えないように、忘れたりする

•自己コントロール—慎重な対処など、自己管理をする

•社会的支援を求める—相談機関や専門家に相談する

•責任を引き受ける—反省したり、謝罪したりする

•逃避、避難—責任から逃げたり、かわしたりする

•計画的な問題解決—計画に沿って、問題を解決する

•積極的な再評価—困難の後の成長のように、結果を再評価する

3. アサーション

対人関係で、不要なわだかまりやトラブルをつくらないために、相手も自分も大切にしたコミュニケーションをとっていくのが「アサーション」である。

会話の際には、まずは相手の言い分をよく聞き、相手の気持ちを尊 重すること。そのうえで自分の気持ちも大切にし、意見を率直に述べた、会話が進まないならうまくかわすなどする。相手に振り回される
ことで、不快を募らせて終わるのではなく、自己決定によって行動し、その結果に責任を持つようにする。さらに、行動によってストレスを発散し、解消することも大切だ。

■「行動」によってストレスの発散・解消を測る方法

1.レスト(Rest)
疲れがたまる前に、意識的に休憩、休息をとることで、根をつめて仕事に集中しすぎると、いずれ緊張の糸が切れて疲労を強く感じてしまう。疲れを感じ始める少し前に、席を立って少し歩いてみたり、コーヒーを飲むなどのちょっとした休憩を入れる。特に、1日中デスク前に座ってパソコンの画面を眺めているデスクワーカーは、1時間~1時間半に1回は休憩をとるようにするのがよい。

2.レクリエーション(Recreation)
ストレスを発散させる趣味を持つことです。何か好きなことに打ち込み、日々のストレスから意識をそらすことによって、精神的疲労から一時的に開放されます。1週間に1回、1時間程度でもこのレクリエーションを取り入れ、自分の好きなことに思いきり時間を使うようにする。
特に、日常とは違う場所で行う趣味やスポーツ、行楽などを楽しむと、解放感を感じやすく効果的だ。

3.リラクゼーション(Relaxation)
呼吸を落ち着かせたり、筋肉の緊張を解くことなどにより、精神を安定させるリラクゼーションを取り入れる。

メンタルヘルスの分野で行われる基本的なメソッドとしては、自律神経のバランスを整える「自律訓練法」、腹式呼吸で体にたっぷりと酸素を取り入れる「呼吸法」、筋肉の緊張させた後に緩めることによって精神的な緊張を解く「筋弛緩法」などがある。
また、お風呂にゆっくりつかったり、ヨガやストレッチをするなど、自宅でできることでも、十分リラクゼーションになる。

■ストレスが引き起こす病気

ストレスによって疲弊すると、うつ病や神経症、心身症などさまざまな心身の病気になりやすくなる。

■ストレスチェックシート:アドバンテッジリスクマネジメント開発

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22項目に示す各点数をすべて足し合わせて合計点を求める。

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